春にひと花咲かせる花木の一年間

サイエンス

春になると、多くの樹木が、暖かい季節の訪れを待ちわびていたかのように、花を咲かせます。ウメやサクラ、モモやボケ、モクレンやサツキツツジ、クチナシやハナミズキなどの花木です。今回は、春にひと花を咲かせる、これらの花木の一年間を紹介します。

ツボミが形成される時期は?

春に花が咲くためには、ツボミがつくられているはずです。「ツボミは、いつできるのか」という素朴な疑問があります。意外に思われるかもしれませんが、「多くの春咲きの花木は、開花する前の年の夏に、ツボミをつくる」というのが、これの答えです。たとえば、ウメやモモ、ボケは八月、モクレンは五月、サクラやサツキツツジ、クチナシやハナミズキは七月などのように、秋までには、ツボミはつくられているのです。

このことを知ると、「なぜ、秋に花が咲かないのか」との疑問が生まれます。これに対し、「秋は寒いから」と考えられるかもしれません。しかし、「秋が寒い」という印象があるのは、その前の季節である夏が暑いので、それに続く秋は寒く感じるのです。実際には、秋の温度は、春とほとんど同じです。 ですから、春に暖かい温度のために花が咲くのなら、夏にできたツボミが秋に花咲いてもおかしくありません。夏にできたツボミが、秋に咲かないのは、「秋は寒いから」という理由ではないのです。

「夏にできたツボミが、もし秋に花咲いたとしたらどうなるか」と考えてください。すぐにやってくる冬の寒さのために、タネはつくられません。とすると、子孫は残りません。もしそうなら、種族は滅びます。植物たちが花を咲かせるのは、子孫(タネ)を残すためです。花木は、開花を徒労に終らせないために、秋に花を咲かせないのです。

花木は、せっかくつくったツボミを無駄にしないために、秋に、「越冬芽」に包み込みます。越冬芽は、「冬芽」 ともよばれ、冬の寒さを越えるためにつくられる硬い芽です。ツボミは、秋に越冬芽の中に包み込まれて守られ、冬の寒さに耐え、花咲く春を待つのです。

「秋に花が咲くと、すぐにやってくる冬の寒さのために、タネはつくられず、子孫が残らない」といっても、「キクやコスモスなどは、夏から初秋にかけて、ツボミをつくり、秋に花を咲かせるではないか」との疑問が浮上します。

でも、キクやコスモスなどは、花を咲かせてタネをつくるまでの期間が短いのです。そのため、秋に花を咲かせても、冬の寒さがくるまでに、タネをつくり終え、子孫を残すことができるのです。 一方、花木が花を咲かせてタネをつくるのには、月日がかかります。秋に花を咲かせると、冬の寒さがくるまでにタネをつくり終えられないのです。そのため、秋に花を咲かせないしくみを備えています。そのしくみが、「越冬芽」をつくり、その中にツボミを包み込んでしまうことです。

越冬芽の形成の“しくみ”は?

越冬芽は冬の寒さをしのぐためのものです。だから、秋につくられねばなりません。とすると、越冬芽をつくる花木は、秋の間に、冬の寒さがまもなくやってくることを知っていることになります。「どのようにして、秋に、花木は寒さがくることを知るのか」との疑問が生まれます。

その答えは、「葉っぱが、夜の長さをはかるから」なのです。では、葉っぱが夜の長さをはかれば、冬の寒さの訪れを前もって知ることができるのでしょうか。これに対する答えは、「できる」です。

夜の長さは、気温より、早く変化するからです。たとえば、夜の長さは、秋に向かって、長くなり、十二月下旬の冬至の日に、もっとも長くなります。それに対して、寒さがもっともきびしいのは、二月ころです。ですから、葉っぱが夜の長さをはかれば、冬の寒さの訪れを、ほぼ2カ月、先取りして知ることができるのです。

越冬芽は、葉っぱがだんだんと長くなる夜の長さを感じてつくられます。夜の長さを感じるのは、「葉っぱ」です。それに対し、越冬芽がつくられるのは、「芽」です。とすれば、「葉っぱ」が長くなる夜を感じて、「冬の訪れを予知した」という知らせが、「芽」に伝えられねばなりません。「葉っぱから芽に、どのような合図が送られ、越冬芽はつくられるのか」という疑問がおこります。 葉っぱは、夜の長さに応じて、「アブシシン酸」という物質をつくります。そして、それが葉っぱから芽に送られます。芽の中にその物質の量がたまってくると、芽が越冬芽に変わるのです(図1)。このようにして、ツボミは寒さから守られて、春を待つのです。

図1 越冬芽形成の“しくみ”

田中修著「植物のいきる『しくみ』にまつわる66題」より
(サイエンス・アイ新書 SBクリエイティブ株式会社)

春に開花する“しくみ”とは?

冬に、硬く身を閉ざした越冬芽に包み込まれていたツボミは、春になると、花咲きます。「なぜ、春になると、花が咲くのか」との疑問があります。

「暖かくなってきたから」という答えが思い浮かびます。たしかに、花が咲くためには、暖かくならなければなりません。ですから、この答えは、間違いではありません。でも、暖かくなったからといって、ツボミは花咲くものではないのです。

たとえば、越冬芽のついた枝を切り取り、晩秋に、春のような暖かさの場所に置いてみても、花は咲きません。気温が低いために花が咲かないのではありません。越冬芽が“眠っている”状態だからなのです。そのため、越冬芽は、“休眠芽”ともいわれます。

越冬芽の中には、芽を眠らせているアブシシン酸という物質が含まれています。これは、芽を眠らせ、越冬芽にした物質です。ですから、越冬芽の中に、これが多くある限り、暖かくなったからといって、花が咲くことはないのです。花が咲くためには、越冬芽の中のアブシシン酸がなくならねばなりません。

この物質は、寒さに出会うと、分解されてなくなります。寒さを感じることで、越冬芽の中で、アブシシン酸は分解されて消失するのです。越冬芽がこの状態になることは、芽が“目覚める”と表現されます。

ということは、花が咲くためには、越冬芽が寒さにさらされねばならないのです。冬の寒さで、アブシシン酸は分解され、越冬芽は、眠りから目覚めます。しかし、目が覚めたといっても、そのときには、まだ寒いので、越冬芽は、目覚めたまま、暖かくなるのを待ちます。

暖かくなれば開花するために、越冬芽の中で、何かの変化がおこらなければならないのです。いったい、開花するために、どのような変化が越冬芽の中でおこるのでしょうか。それは、「ジベレリン」という物質がつくられることです。

冬の寒さを感じたあとに、暖かくなって開花するためには、目覚めた越冬芽の中に、ジベレリンがつくられるのです。ジベレリンは、ツボミの成長を促し、越冬芽から花が咲くのを促す物質です。

ですから、「なぜ、春になると、花が咲くのか」との疑問の答えは、「越冬芽が冬に寒さを感じると、芽を眠らせるアブシシン酸が分解されて消失する。これで、ツボミは開花ができるように目覚めた状態になる。そして、春に暖かくなるにつれて、開花を促す物質であるジベレリンが越冬芽の中で合成されて、開花がおこる」ということになります。

「春に、多くの花木がひと花咲かせる」という現象の裏には、“冬の寒さ”を感じて目覚め、“春の暖かさ”に反応して花が咲くという“二段階のしくみ”が働いているのです(図2)。

図2 春に開花する“しくみ”

中修著「植物のいきる『しくみ』にまつわる66題」より
(サイエンス・アイ新書 SBクリエイティブ株式会社)

春を迎える花木たちが寒さに耐えている姿は、枯れ木のように見えます。でも「“ひと花咲かせる”ためには、寒さという試練に耐えることが必要なのですよ」と教えてくれている姿なのです。

Guest Columnist

田中 修
TANAKA Osamu
農学博士、専門は植物生理学。
甲南大学名誉教授。
京都大学大学院博士課程修了。
スミソニアン研究所(アメリカ)博士研究員などを経て現職。
植物と人との関わりなどについて、テレビやラジオなどで解説。 主著に『植物はすごい』『植物はすごい 七不思議篇』『植物のひみつ』『植物のいのち』『日本の花を愛おしむ』『雑草散策 四季折々、植物の個性と生きぬく力』(中央公論新社)、『植物のあっぱれな生き方』『ありがたい植物』(幻冬舎)、『植物学「超」入門』『植物のすさまじい生存競争』『植物たちに心はあるのか』(SBクリエイティブ)、『植物はおいしい』(筑摩書房)、『植物 ないしょの超能力』(小学館)、『誰かに話したくなる植物たちの秘密』(大和書房)、ほか多数。

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