花のトレンドはどこから?

マーケティング

花の流行は、気まぐれのように見えて、私たちの心の動きや暮らし方に寄り添って生まれます。少し前まで夢中だったものも、いつしか「もう違うものが欲しい」と感じる瞬間があると思います。そんな小さな変化が積み重なり、やがて多くの人の気持ちが重なると、ひとつのトレンドが形になります。しかし、ヒット商品やトレンドが生まれるためにはいくつかの条件があります。トレンドはどこからきて、何と共鳴することで大きくなっていくのか、検証してみたいと思います。

「飽きる」ことで生まれる新たな嗜好

トレンドはどこから生まれるのでしょうか。その源のひとつは、人間の脳が持つ「飽きる」という性質だといわれています。私たちは同じことを続けていると飽きてしまい、自然と次の新しいものを求めます。「飽きる」というのはネガティブに捉えられがちですが、飽きたのにずっと同じことをしていると、それは「疲労」に繋がり、疲労が重なれば次は生命に関係してきます。「飽きる」のは疲労の初期サインといわれます。つまり、「飽きる」ことは豊かに生きるための大切な機能でもあるのです。
この性質のおかげで、私たちは無意識のうちに次の嗜好へと向かい、やがてそれが多くの人のマインドと重なって「トレンド」となります。花の場合は、ファッションやインテリア、経済環境や社会状況といった外部要因が複合的に作用し、デザインのトレンドが形成されます。そしてそのトレンドを再現するための素材が注目され、ヒット商品へとつながります。

ダリア
ダリア
トルコギキョウ
ラナンキュラス

たとえば、大輪の花を隙間なく束ねるブーケロン(ラウンドブーケ)が好まれる時期には、大輪のダリアや八重咲きのフリルの強いトルコギキョウが引き合いを増します。一方、シャンペトルのような小輪で風通しのよいブーケが注目されれば、細やかな草花やグラス類が人気を集めます。結果「グラミネ」と呼ばれる新しい商品カテゴリーとして誕生したのは、皆様の記憶にも新しいところでしょう。

グラミネなどの草花は、ブーケロンの大輪礼賛時代には、ブーケの中で入る場所がなく、市場でも高く評価されることは稀でした。大輪礼賛時代には、素朴すぎると敬遠されがちな花材が、同じ姿のまま現在は「ブーケにいれるだけで完成度が上がる」と180度評価が変わるのも面白いところです。人は飽きると、全く反対の要素を嗜好するのようになるようです。

グラミネ(大田市場仲卸店頭にて)

但し、どれほど嗜好が高まっても、それを供給する人(生産者さんや輸入商社さん)がいなければ流行は成立しません。あるいは、デフレの時代に花の価格が高すぎれば、多くの人に使っていただくことはできないでしょう。ここが農産物でありながら、嗜好に大きくかかわる花の特徴で、そのトレンドは生活者のマインドだけではなく、生産・流通・小売、さらに社会や経済環境が揃って初めて形づくられるものなのです。

トレンドの指標「フラワー・オブ・ザ・イヤーOTA」

わたくしども大田花き花の生活研究所では、花のトレンドを調査・発信しています。その象徴的な取り組みが『フラワー・オブ・ザ・イヤーOTA』です。2024年で第20回を迎えました。
詳細はこちら https://otakaki.co.jp/contents/flower/

大田花きに流通する約7万点の中から、出荷数量や金額が数年にわたり伸び続けた品目を候補とし、営業本部のノミネートを経て、買参人による投票で選出します。個人の恣意が入りにくく、実需に基づく流通視点のトレンドが反映されるのが特徴です。

近年の象徴的なトレンドは「枝物」です。ナチュラルでシンプルなインテリアトレンドが広がる中、枝物は商業施設中心の需要だったのが、昨今は個人宅で飾る需要が拡大しました。さらに生産側の事情が重なり、出荷量増加が実現。これが追い風となり、供給と消費が噛み合ってヒットしたのです。
2022年にはサクラ「湖上の舞」が入賞、2023年には「秋色ミナヅキ」が最優秀賞、「キイチゴ(カジイチゴ)」が新商品奨励賞に選ばれました。秋色ミナヅキは法人需要が中心でしたが、1〜2本を飾る個人需要が拡大し、生花店でも「仕入れた分だけ完売した」と注目を集めました。2024年は「ミモザアカシア」が特別賞に。「ミモザの日」だけでなく、1〜3月のシーズンを通じて需要が高まったことを受け、生産者さんが出荷体制を強化、需要に見合った数量を出荷できるようになったことが受賞につながりました。

サクラ “湖上の舞”
秋色ミナヅキ
キイチゴ “いろは”
ミモザアカシア

また、2024年は市場の品薄傾向を背景に、キク・バラ・リンドウ・ヒマワリなどの大品目から選ばれています。主食のお米と同じように、花においても量と品質を支える基幹品目がなければトレンドは語れません。そのなかでペールトーンやニュアンスカラーといったファッションや生活雑貨と共鳴する品種が選出されました。トレンドは、必須条件が揃って初めて生まれる現象だといえるでしょう。

ディスバッドマム“クラシックココア”
ヒマワリ“ダージリン”

『フラワー・オブ・ザ・イヤーOTA』は毎年12月上旬に発表されます。ぜひ今年の発表にもご注目ください。

次のトレンドの変化はいつ現れる?

細かい流行は毎年移ろいますが、大きなトレンドの転換は14年ごとに訪れます。次の大きな変化は2027年頃と予想しています。

デザインや販売においては、トレンドに左右されず定番を堅持していくのもひとつの選択肢です。一方で、トレンドを提案していくポジションであれば、2026年後半から新しいトレンドの芽が出てくるでしょう。皆さんの鋭い感性と観察力で、いち早くその兆しをキャッチして、デザインに生かしてみてはいかがでしょうか。

*2027年には、国際園芸博覧会「GREEN×EXPO2027」が開催されます。多様な花の展示、新しい植物の可能性など、国際園芸博覧会への期待が高まります。

文責 株式会社 大田花き花の生活研究所 内藤 育子

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