教育スケッチブック
パウル・クレー/著 利光功/訳
中央公論美術出版/刊 66ページ

 スイスで生まれ、20世紀に活躍した画家パウル・クレー。一見すると子どもの落書きのように見えるクレーの絵は他に類を見ず、それだけで独立しています。なにが描かれているのかすぐに分からない絵も多くあり、だからこそどこにも属していない独特な世界観に引き込まれていくのでしょう。
 そのパウル・クレーがバウハウスで講義していた内容をまとめたものが、この「教育スケッチブック」です。バウハウスとは、1919年にドイツのヴァイマルに設立された、工芸・写真・デザインなどを含む美術と建築に関する総合的な教育を行った学校です。講義と言っても、説明らしきものはほとんど省略され、決して読み手にとって優しい本ではありません。基本的なテーマは①線と構造、②次元と平衡、③引力、④運動エネルギーと色エネルギーの4つ。絵に関係していないのでは、と思うテーマもあり、クレーの描いた挿絵から理論を読み解くには時間がかかることでしょう。ただ、クレーが自分自身の芸術論を追求し、それらはクレーの手による挿絵で表現されていて、読み込んでいくほど、ただ思いつくままに描かれたとしか思えない絵がそうではないことに驚かされます。
 時間をかけて本書をじっくりと読み解きつつ、あらためてパウル・クレーの描いた世界を覗いてみると、新しい捉え方が発見できるかもしれません。

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