前回、秋に花を咲かせる草花は、長い夜を感知してツボミをつくり、花を咲かせることを紹介しました。これらの植物は、夜の間に当たる光にたいへん敏感です。葉が夜の長さを計っている最中に光が当たると、夜の暗黒の効果が無効になり、ツボミはできません。
たとえば、アサガオは、16時間の暗黒を感じると、ツボミをつくります。ところが、この16時間の暗黒の開始から約8時間後に、ごく短時間の光を当てると、ツボミはできません。暗黒の途中で光を当てると、ツボミをつくるという暗黒の効果が失われるのです。暗黒を中断することは、「光中断」とよばれます。
暗黒の効果を無効にする光中断には、赤い光を数分間当てるだけで有効なのですが、奇妙な現象が見られます。アサガオの葉に赤色光を当てて光中断をすると、ツボミはできませんが、赤色光を当てたすぐ後に数分間の遠赤色光を当てると、ツボミはできます。遠赤色光というのは、赤色光よりかなり暗く感じる赤色の光です。遠赤色光は、赤色の光中断の効果を無効にするのです。
遠赤色光を当てたあとに、もう一度、数分間の赤色光を当てると、ツボミができません。そのあと、また、数分間の遠赤色光を当てると、ツボミはできます。この繰り返しは、何度でもできます。結局、最後に、赤色光が当てられたときには、ツボミはできず、最後に、遠赤色光が当てられたときには、ツボミができるのです。

この現象を発見した研究グループは、このような奇妙な現象をおこすには、葉に、次のような3つの性質を持つ物質があるはずと、推測しました。

●赤色光を吸収する型(Pr)と、遠赤色光を吸収する型(Pfr)がある。
●Prに赤色光が当たるとPfrに変化し、Pfrに遠赤色光が当たるとPrに変化する。
●つぼみの形成は、Pfrが抑制し、Prは抑制しない。

このような性質をもつ物質が存在すると、奇妙な現象はわかりやすく理解できます。赤色光が当たると、Pfrができるので、ツボミはできません。赤色光のあとに遠赤色光が当たると、PfrがPrに変化するので、ツボミはできます。もう一度、赤色光が当たると、PrがPfrに変化するので、ツボミはできません。この変換は、何度でも繰り返されると考えると、奇妙な現象が説明できるのです。

そのため、このような性質をもつ物質が探し求められ、1959年に、推測された通りの性質を持つ物質が発見されました。この物質は、植物を意味する「フィト」と、色素を意味する「クロム」を合わせて「フィトクロム」と命名されました。

田中修著「植物学『超』入門」より改訂(サイエンス・アイ新著 SBクリエイティブ株式会社)

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