前回、「植物がツボミをつくるために必要な夜の暗闇の長さを感じるのは、葉っぱです。それに対し、ツボミは芽の中でつくられます。そこで、ツボミをつくるのに必要な夜の長さを感じた葉は、フロリゲン(花成ホルモン)という物質をつくり、それを芽に送ると考えられました。フロリゲンはツボミをつくる物質ですから、『もし手に入れば、好きな時期に芽に与えてツボミをつくらせることができる』と考えられ、フロリゲンを葉から取りだすことが試みられましたが、成功しませんでした」という内容を紹介しました。
ところが、近年、イネやシロイヌナズナという植物を使って、フロリゲンの正体が明らかにされてきました。
夜が短くなるとツボミをつくる長日植物であるシロイヌナズナでは、“FT”と名づけられた遺伝子が、ツボミをつくるために必要な夜の暗闇を感じた葉で働きます。この遺伝子が働かないと、ツボミの形成が遅れ、逆に、この遺伝子が積極的に働くと、ツボミがつくられます。
また、この遺伝子が働いてつくられるタンパク質が、ツボミをつくるために必要な夜の暗闇を感じた葉でつくられ、葉から芽に移動することが確認されました。そのため、「シロイヌナズナでは、この遺伝子がつくりだすタンパク質がツボミをつくらせる」と考えられます。

夜が長くなるとツボミをつくる短日植物であるイネでは、“Hd3a”と呼ばれる遺伝子が、ツボミをつくるために必要な夜の長さを感じた葉で働きます。この遺伝子が働かないと、ツボミの形成が遅れ、活発に働くと、ツボミの形成が促進されます。
この遺伝子がつくりだすタンパク質は、シロイヌナズナの場合と同じように、ツボミをつくるために必要な夜の長さを感じた葉から芽に移動します。そのため、イネにおいては、「この遺伝子がつくりだすタンパク質がツボミをつくらせる」と考えられます。

シロイヌナズナは長日植物で、イネは短日植物ですが、FT遺伝子とHd3a遺伝子がつくりだすタンパク質の性質は、大変よく似ています。そのため、シロイヌナズナとイネにおいて、ほとんど同じ性質のタンパク質が葉でつくられ、芽に送られてツボミの形成を促していることになります。ということは、フロリゲンを探し求める過程で考えられてきた「フロリゲンは長日植物と短日植物に共通の物質である」という知見に合致します。

以上の結果、現在、FT遺伝子やHd3a遺伝子がつくりだすタンパク質がフロリゲンであると考えられています。

図 FTタンパク質による「ツボミの形成」
田中修著「植物学『超』入門」より
(サイエンス・アイ新書 SBクリエイティブ株式会社)

シロイヌナズナ

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